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パリ発 五感の穴

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パリでコモロ

5週間強前の話ですが、入院した際に、コモロ諸島出身の女性と同室でした。通常同郷の人は、1人部屋を頼むらしいのですが、私にはそういう頭もなく、最初から2人部屋であることに何の疑問も抱かなかったのです。初日はコモロの女性ではない他の方が窓側のベッドにいて、彼女は早く退院したかったようで、入れ替わってコモロの女性が部屋に入りました。5人目の出産ということで、後産に苦しんでいるのが分かって、特に彼女の場合は身体も大きくて気の毒になり、なぜか私も入院している身のはずですが、キッチンからお水を持ってきたり、身の回りのお世話?をしたりしました。

この経験がある意味超現実的だったのは、彼女の出身地が、日本から来た私には少し珍しいということだけでなく、彼女がSans papier(超過滞在などの不法滞在者)であったことにあります。国立病院を選択し、2人部屋となると、こういうことも当然あり得るのでしょうが。

(ちなみに。ブログ散歩をしていて、同じくパリ在住、こちらは社会学博士で研究されている磯さんのブログにも、この関連で興味深い言及があります→社会学徒の研究(?)日誌http://d.hatena.ne.jp/naokimed/20100726/1280152542。話は逸れますが、気骨なブログで、また学部時代の本たちを思い出して、急に公共政策寄りの議論から社会学に引き戻されました。)

彼女のケースをかいつまんで話すと、元々コモロ諸島から旅行ビザでやってきてそのまま残ってしまったこと、そのうちにパスポートを紛失したこと、この度パリで出会ったコモロ諸島系フランス人の男性との間に子供ができたこと、けれど彼は結婚をしており、重婚を認めないフランスで彼と結婚することは無理なこと(彼女の国では宗教的にも可能)、その子供のお父さんはあいにく入院中一度も子供の顔を見にはこず、けれど子供の認知には合意していて、子供はお父さんの名字を授かること、などが同室での会話で分かりました。通所コモロ諸島はマダガスカル同様仏語も一つの大切な共通語なのですが、彼女の場合は彼女いわくきちんとフランス語の教育を受けておらず(もしくは受けていたけれど家庭の事情・ないし彼女自らの選択でドロップアウトしてしまった)、フランス語も大切な局面になると完全ではないことが、入院においても障害を生んでいるように見受けられました。実際、子供の出生登録で困っていそうなところに出くわし、なぜかフランス語があやしい私が一助するという不思議な状況だったのでした。

では、そんな彼女がなぜ子供をもうけたのか。それは彼女と子供のお父さんの選択であり、彼らのみ知ることなのですが、一つ大変立ち入った失礼なことを言えば、もしかしたら子供を産むというのが、彼女自身がフランスに住み続けるセキュリティになるという可能性もあるのかと、彼女の話から察するのです。フランス人のお父さんを持つ子供がフランスに住むために、赤ちゃんを養育するお母さんが共にフランスに住むというのはごくまっとうな理由になります。

全くの赤の他人の私がこういう他人様の話に立ち入るのはどうかと思うのですが、実際今退院した彼女がどうやって子供を育てていくのか、特にフランス語が(特に察するにフランス語の読み書きがあまり完全でない模様)達者でない場合、どのように仕事を見つけるのか、どの程度のサポートを赤ちゃんのお父さんから得られるのか、病院を一歩出た彼女に問題は山積みであることは一見明らかです。実際、彼女曰く、今回の出産も所得がない人の援助を国から得てしているとのこと。不法滞在というステータスに関わらず、それはそれでまずは産まれてくる新しい命を守ろうとするフランスの懐の深さを感じずにはいられません。

そして。子供を産むという大きく、ある意味大変リスキーな「賭け」をしてもこの地に残ろうとする彼女。そこにある「愛」だとかそ、れ以外の「自分の人生を自分の手で手に入れる」という強い衝動に、病院という小宇宙で軽く眩暈がしたのでした。
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by Haruka_Miki | 2010-09-20 00:00 |
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