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パリ発 五感の穴

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市場の神

先日、シンガポールのカヤを塗ったパンとチャイで朝ごはんをしていたところ、存じ上げている顔がテレビにでてきた。

有名人と呼ばれる人と私は縁遠い生活をしているので、日々は平和に過ぎていき、テレビに露出する人の素顔はよく分からないケースが多いのだが、そんな中でひょんなことから実際にお話する機会があり、言いがたい感銘を受けたのはバーナンキ連邦準備理事会議長である。

まだ学生の頃に、私は大学新聞の記者をしていて、いつもであれば学校の中のバリアフリー事情だとか、草の根の話を取り上げていたのだけれど、あるときバーナンキさんが来日し、私が通う大学にやってきて、講演をすることになった。新聞部としては、さほど大きなニュースではなかったが、当時の私にとっては、まさに次期FRB議長になるかもしれない人だと思うと、これは一度取材を理由にぜひお会いしたいと思って、取材の記者に手を挙げた。

当時のバーナンキさんはまだFRBの委員の一人で、その言動は注目されはすれど、もちろんグリーンスパン議長(当時)とは比べ物にならなかった。それでも、講演の後の質疑応答では、金利を上げるのか、とかそういう現実的な質問は控え、あくまでその日の講演内容に限定され、氏の専門である大恐慌時代のデフレに関しての質問を受けつけた。会場には経済系通信社の記者も数多くいて、学生の突拍子もない質問になにかうっかり氏が大切なコメントをしないか一言も漏らさず聴いているようだった。講演会は拍手喝采で終わった。

大学新聞の方、十五分で取材を済ましてくださいと関係者に言われ、秘密部屋があり、氏をそこで待った。それはなんとも贅沢な空間なのである。大学というところには、こういう部屋が学生が知らぬところに存在している。あまりに立派な部屋で、こちらが恐縮した。私は経済学は専門ではなかったし、FRBの委員などといえば、とても自信に満ちていて、鋭くて、ポイントがずれた質問をしたが最後、ずたずたに噛み割かれてしまうんではなどと杞憂していた。

氏が部屋に入ってきた。講演会の時よりも自然体である。失礼だけれど、どちらかといえば、地味な雰囲気で、それでも何か内に秘めたオーラを強く放出していた。素人が経済のことを聞いてもノンセンスなので、氏の学生時代や研究内容の設定やご家族のことなど、ざっくばらんに伺った。

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(Prague, Czech Republic, December 2003)

静かな海のような人で、クラシック好きで多分、音楽のことをインタビューで一番話していた気がする。お子さんや奥さんのことを話すと目を細めた。普通の人で、でも、普通じゃなかった。言葉選びは学者ずれして難解なわけでなく、極めてシンプルで、スマートで、気取っていなかった。直接経済の話をしたわけでも、暗喩したわけでもなく、もっと大きな流れを表現していた。静かな、しかし強い印象がずっと心に残った。

今思えば、その時に感じたオーラはなんとなく、見えざる神の手によって導かれるとされる市場経済を、いやしかし見えざる神の手だけでは問題をきたすから、時に介入する世界に絶大な力を持つFRBの議長の素養、神がかり的なものだったのかもしれない。
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by Haruka_Miki | 2007-09-03 00:00 | 経済的営み
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